記憶喪失/kawa
かつて
わたしたちの知るところではなかった雪を
当たり前にながめるわたしの感受性のなさ
たった二十年前、人は雪に触れることを許された
その五年後に、地上に最初の街ができ
更に五年後にいくつもの街をつなぐ鉄道がつくられ
更に更に五年後に人は地下世界を捨て
去年までには、それまでのすべての憧れとかなしみを忘れてしまった
雪への
みな同じ言葉が口癖になった
雪への願いだった
それはすべての言葉の代用だった
富めるものも貧しきものも
健やかなるものも病めるものも
愛しあうものたちも憎しみあうものたちも
正しきものも悪しきものも
同じ言葉を口にした
わたしは何も知らず
ビーカーで飼われるキリンのように
目を閉じて
そんな願いに触れている
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