鳥/salco
その少年が死なねばならぬ 理由はどこにも無かった
夜明けの遅い南西の島の窪み
降霜を知らぬ灰白色の谷間
その通い慣れた道を
生まれ育った町から一歩たりとも出ぬ内に
その少年が死なねばならぬ 理由は頭上まで満ちていた
コンクリートの巣の中で人間達は眠っていた
この 何をも掴み切れぬ細い指をした少年の事なぞ
知る筈もない人間達は
また 知っていると思い込んでいた数少ない家族も
水銀灯の朧に照らす夜の海底にただ一人
影さえ残さず出て行った少年の事をなど
誰もが眼前に少年の溺れているのを見なかった
そのまぶしく灼けた皮膚さえ鎧たり得ぬ事に絶望し
蒼い骨の中 舟影も光も見
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