春一番/吉岡ペペロ
 
路地から通りにでると

いや、もう路地から

あたたかな風がほどけていたのである

それがからだをやらかくぶ厚く

バイブレーションさせていた

坂道を明治神宮のほうへあがった

大気はみずをふくんでいるのに

いや、みずをふくんでいるからふわふわなんだ

季節はめぐる

ときがめぐる

用を済ませて部屋にもどる

すこしぬるい夕闇に電気をつける

すると涙がでてきたのである

ホームシックのようなかなしみが

皿をあらい

テーブルをふき

ごみ箱をかたすからだにあふれていた

かなしいぐらい切実に

春一番がきょうこの町に吹いたのである






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