美術用品のある日常/吉田ぐんじょう
 

午後四時
青の上から
橙や赤や紅色が
塗り重ねられてゆくのを見ながら
大急ぎでベランダのシーツを取り込む
あのうつくしい仕事をしている人が
どんな人だかは知らないが
時折
ゆるめに絵の具を溶いてしまうことがあるようだ
油断していると
ぽとりぽとりと鮮やかな
夕暮れいろの雨が降る


夜空を一直線に貫いてゆく飛行機を見ながら
あの中にいる
どこにも辿り着いていない乗客たちのこと
高度何千メートルという寄る辺ない場所で
ひそやかに前を向いて座っている
孤独なひとたちのことについて考える
飛行機に乗ったことがないためか
わたしの頭の中に浮かぶ
飛行機の
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