歩行/salco
ショーウインドゥの中にはド素人の描いた
ローランサンの贋作が飾ってある
どんなに遠くから見ても錯覚すら起きない
紫と赤の花弁の中で白い少女が
脂蝋化の死体さながら微笑んでいる
車のフロントグラスがフラッシュを焚いて
通りをゆっくり曲がる
藍染めの暖簾は重く垂れたまま
店の中は別世界さながら暗い
通り過ぎた私の頭に残ったのは
人をもてなした事のない安物の茶器と
小さな赤い纏足だけ
背を丸め影を見ながら歩いていると
二月の風に三月の声を聞いた
それはほんの微かな音楽だった
中には遠い日の
陽だまりの匂いも混じっている
風にはフルートの薄紫色が
所々絡みついている
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