クローゼットの秘密/渡 ひろこ
 


そして誰しもがそんなクローゼットを胸の内に、
一つは持っているのだと思う。


背徳の薫りが染み付いたコートをしまうだけではなく、
人からの羨望や嫉妬の念、逆恨み、
あるいは自己嫌悪や諦め、逃避、
または密やかな慕情や新たな希望、祈りなど、
数多の感情を呑み込んで、
闇に閉じ込めているのである。


表に曝さないことを美徳として、
闇の奥で埋もれた秘密をゆっくり蒼白い炎で、
浄化している。


忍耐強く、唯一の美意識によって
炎上しないように閉ざされている。


呑み込んだものが消えるまで、

クローゼットの扉を開いてはいけない。








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