美しいことば/atsuchan69
今しも既存の秩序が設けた禁断のタブーである異界の前に立ち、より悪いことや、より不潔なことにアブナイ視線を送っている。
濃くて甘い、残虐な夜の匂いが淡いことばたちの裸体をつつみ、か細い針にのった夢や希望が忽ちのうちに裏切られてゆく幻魔の時刻に。
――危険で不安定な異界との境界における「カオス」との取引は、一瞬だ。ほんの少し、ほんの少しだけココロの純心さへタブーの侵入を許す。
すると高くそびえた鋼鉄の城壁が魔の領域へと前進し、秩序圏はカオスを飲み込んだぶんだけ大きく拡がった。
そして強かな秩序は、昨日までは犯罪者であったゲージュツ家へ「領土を広げた」褒賞として舌と唇だけの自由を与えるのだ。
こうしてゲージュツ家は、自由なる舌と唇をつかって今日も高らかに詩を吟じる。――
そうだ、たった今からは自らの権威を高めるために万人向けの「美しいことば」を復唱するのだ。
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