君の午後/塔野夏子
 
目を閉じて
果実たちの歌をうっとりと聴いている君の午後
に あたり前の登場人物のようにとどまっていたいのに
何故だろう砂のようにこぼれてゆく僕の輪郭
すっかりこぼれてしまう前に
君に気づいてもらわなくてはと思うけれど
君のそのうっとりを壊したくなくて
僕は呼びかけることができない

僕がたぶん君の知らない遠くで
もういちど輪郭を取りもどす頃
君の意識の底をふと掠めるだろうか――
果実たちの歌が流れていたある午後
に つかのま登場した人物の気配




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