背中/nonya
 


誰かの手に押されて
僕は荒野に足を踏み入れた
覚束ない足取りで
僕は荒野を歩き始めた

とてつもなく不安になって
泣きながら喚き散らしても
僕の言葉は曇天に喰われるだけ

ほとほと疲れ果てて
後ろを振り返ろうとしても
誰かの手は黙って僕の背中を押すばかり

歩き続けるしかなかった

けれど

ある朝

ふいに
僕は分かってしまった

あなたの背中が
しきりに喋っていたことを
孤独に頭を突っ込んだまま
暑苦しく語りかけていたことを

痩せ我慢を貼り付けた
背中を想い出す

照れ隠しがはみ出した
背中を想い出す

どんな風にも揺るがない
背中を想い出す

未だに
僕の背中は
うまく喋ることができない



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