たからもの/木立 悟
空はふたつ
互いを追いかけ
雲はひとつ
高みへのぼる
たからもの
たからもの ふりくる
誰のなかにも
物のなかにもあるものが
聞こえくる
聞こえくる 水紋の道
目に見えないひとりの踊りの
響きわたる軌跡を歩む
雨や光や林は傾いで
鳥や子や 鳥や子や
はばたきや
はばたきに至るものを照らしている
歪みつづけ
混じりつづけ
重なりつづけて清らかになり
燃えあがる原を映しだす水が
ふたたび冷えるまでの間だけ
光は水辺に立っている
ふと気がつくとまわりには
失くしたもののかたちがある
涙は小さく手のひらになり
ひとつひとつに触れてゆく
置いてきた日々
忘れていた日々
打ち寄せる原に消えてゆく
飛び去る
飛び去る
雨のきざはし
まぶしい曇を見つめるまなざし
滴を見つめる滴へと
すべての未知と未熟の姿にまたたいて
たからもの
たからもの ふりくる
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