水仙の惑い/月乃助
ここには海がないのです
人をあざける海鳥たちの鳴き声のかわりに
杉森をこごえさす雪の白さが
躊躇いもせずに町をみたしている
知らないもの同士が連れ添うような
紅茶のカップを二つ温めながら
他人を見つめる目で
老いはじめた 母を眺めていた
待ちわびる春に
生けられた早咲きの切花の水仙は、紅く口べにをまとい
山からの水をありがたがる
水さえあれば生きられるその単純さに 私はとまどい
妬みながら
生活にからみついたものを切り取るように
必要なものが多すぎて だから必要なものから捨ててきた
母は、ただ笑ってそれで良かったと言う
私の靴下は、どれも片方ばかりで
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