大洪水/葉leaf
て一人の家族になる。その家族の、整った眉、大きめの鼻、少し歪んだ唇、そして鋭い眼、それらの配偶の誠実さから語りだされる文字たちの効力について実験を重ねている。読むべき問題集を選び、堅固な鍵穴へと合わせるべき記号を成形し、テーブルの上に広げられた都市を手のひらで切り倒し、横へ横へと眼を現像していく。ドアをノックする音が結んだ速力に未来を繰り返させ、文と文との組合の底に沈むいがみ合いを捕食する。
目覚め、さらに目覚めると、胸から頭にかけて炎の死体が時刻を告げていた。追試から留年へ向かって一組の食器類が輪唱していた。視線を、横に四分の一回転、縦に四分の一回転させて、カーテンを巻き上げ、光の枢軸を跳び越し、テーブルの翼から二歩進んで、咲いていく管たちが食欲を置き換え続けるのを、高低、善悪に振り分けた。五十二キロ離れた波のしずく、百三十グラムの鳥のさえずり、たった一個のまつぼっくり、それらを束ねる意志の動脈に差し込むべき道を一つも持ち合わせていない。試験会場は確か、雲の舳先から連合した情動のるつぼだったか、それとも建物の根から滴った煙の塊の中だったか、それとも・・・
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