新月は竹藪のなかに潜む猫/アラガイs
あるとき どこかの竹藪を歩いていた私は 何かの拍子につまづいた 。
すると 隠れていた猫が一匹飛び出してきて
竹藪のなかの一番大きな青竹の中から一冊の本が開いた 。
灯りが点っていたのも忘れていた 。
猫は自分がなぜ このような場所に居るのかもわからずにまた逃げていった 。
私は本が現れたのか
猫が隠れていたのかを見失い、灯りの方へ足を向けた 。
光の影に歪んだ辺り
気配だけはする。
猫には逃げ場もなく藪の陰に身を潜めていた 。
気がつくと、その灯りは本の挿し絵の灯りで
月の灯りではなかった 。
本は月の灯りをひたすら隠し続けている
月は本がある限り隠されている
猫は本がある限り竹藪から出られない
では月が新しく欠けたならどうか
といえば
本もやはり新しく欠けるのだ
つまり
月は新しく欠けてゆく本のなかで明るく輝き
猫は古い猫であるかぎりこの竹藪からは出られないのだ 、
と
欠けた月と欠けた本の新しい灯りのなかで
欠けてゆくわたしも猫も
そう思っている 。
戻る 編 削 Point(3)