詩人町(しにんまち)/385
が
その齢を知るものは誰一人いなかった
一生のある時期だけ
詩を詠むものが大半だったからだ
それに長老自身、もう忘れていた
詩を詠む場を作り
輪の中にいるだけでよかった
そうして
長い年月が過ぎた
時代は移り
たくさんの娯楽が生まれた
人々を楽しませ癒し
つらさを忘れさせ
あるいは何も感じずとも
生きられるようになった
読み書きを覚えたものは
人知れず詩をつくるようになった
誰もやってこない満月の夜
ついに長老は決意した
心静かに自らの着物に火を放ったのだ
あっという間に家まで燃え広がった炎は
月虹の空を赤々と照らし出した
こうやって詩人町は廃村に至った
詩も、詩人町の記録も
何も残ってはいなかった
夜が明けた町には
ただ空き地が残ったのみで
誰も思い出せなかった
何があったか
むかし、この場所に
(04.10.31)
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