羊・風車・深海魚/小林 柳
。過ぎ、現れる。過ぎ…
やがて陽が落ちる。午後の陽と埃を被り、全てが黄土色をしている。
そして徐々に
広がる
夜。
枯れ木は枝を空へ伸ばし、夜に刺さっている。海に沈んだ、砂漠の夜に。
外に人の姿はない。車内では、深海魚のように人々が眠っている。
二筋(ふたすじ)のヘッドライトが届かない深みへ、波のない底へ、バスは潜る。
静かに窓を開けると、凍った風が氷のかけらを残した。
それをひとつ口に含むと、いっそう寂しい。
吹きこむ砂粒は止まない。
粒は体の空洞を抜け、底へ落ちてゆく。
鼻腔から肺を抜け、暗い奥底へ積もってゆく。
その砂は散らばり、透明な砂漠が広がる。
病気の熱帯魚が一匹、そこで泳いでいる。
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