アジャセのしるし/殿岡秀秋
 
閉して食を断つ。母イダイケはカラダにハチミツを塗って面会にいき、王になめさせる。それを知ったアジャセは怒ってイダイケを幽閉する。そして王を餓死させる。アジャセは皮膚病に苦しみだすが、釈迦の教えをきいて癒される。やがて仏教を守護する国王になる。

母はぼくをおろすために産婦人科の手術台にのった。戦中と戦後の相次ぐ引越しと食糧難と二人の幼児の子育てで母の疲労は極限にきていた。父と相談して決めたことだった。
医師が隣室で鋏みなどを用意する金属音を響かせた。それを聴くと怖くなって母は手術台をおりた。
「先生、今日はやめときます」
屠殺場に連れられていく豚のように、まだ、人間の形になったばかりで、
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