帰郷/月乃助
はず
手に入れることなどできはしない
けれどもみんな繰りかえす
それしか方法がないかのように
つぶれてしまった自動車会社の大きな車が
街灯のしたにあらわれる
疲れた音をたて
女を値踏みする男の狡猾そうな赤い笑顔
― どこまで行くんだい?
― Tokyo。
― Tokyo?こんな時間に空港かい。
途中までなら乗っけてやるよ。乗るかい?
― ……
バスを 待つわ、もうやってくるはず。
行き先を求められるのには、慣れている
たとえ行き先など決まっていなくても
適当に答えてきた それで許された
誰かが迎えにくれば、何も言わずに帰っていくのだろうに
無言の想いを今来たところに置き去りにして
もう なにもかも
終えてきたはずなのに
でも、
もし
次に車が止まったら
乗っていこう
行き先は、知らぬ間に決まっている
乳飲み子のように何も考えずに
ただ、さらわれていくだけのこと
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