帰郷/月乃助
看板ばかりが大きな
古ぼけたシェブロン
停留所のサインも なにもないそこに
長距離バスがやってくる
テール・ランプの冷たい光りの帯
夜の街は、行き場を失った静けさに満たされ
月の光さえも灰になってしまうから
指の間にたまっていく悲しさに 小さく息を吐く
重そうな鞄を手にし
女がひとり待つ
持ってきたものは、すべてガラクタばかり
思い出はみんな家に置いてきた
それなのに大事そうに、
少し意地になって鞄を下に置こうとしない
ヘッドライトの片方壊れた車が
無機質な液体で満たされる
まだ、おまえは走らされる
本当に必要なものなど、ここでは与えられないはず
[次のページ]
戻る 編 削 Point(14)