舌打ち/たもつ
町の公民館に移動映画館が来た
視聴覚室の小さなスクリーンと
パイプ椅子で上映された
打算的な男と女の物語だった
適当なところで事件が発生し
男も女もよく舌打ちをした
飽きてしゃべりだす子どもたちを
たしなめる親の声が
あちらこちらから聞こえた
映画は無難な結末で終わった
帰りに、一人で暮らしている
再従兄のアパートに寄った
先ほどまで寝台で横になっていたようだ
最近は手の震えがひどくて何もかも億劫だよ
そう言って湯を沸かし始めた
手伝おうとしたけれど
お茶を入れるくらいなら
と言って急須にお湯を注いだ
お茶を飲み
いくつかの世間話や親類の話をした
その後、簡単に部屋の掃除をして
シンクに溜まっていた食器を洗い
アパートを出た
掃除中に、いいから、いいから、
と言っていた再従兄の声が耳に残った
かえって傷つけてしまったのかもしれない
と思うのに精一杯で
他のことは特に何も思わなかった
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