お代り/小川 葉
 
嫌われはじめている
裏口で泣いていた母は
今日もどこかで泣いているだろう
父も死んだからひとり
あの大きな家で暮らしてる
誰もいない他人の家で
静止したままの世界に生きている

わたしは巨人も
巨人以外にも興味がないまま
人の父になっていた
誰もいない時の果てで
いやはじめから
わたしはやはりひとりだった

お代り、と言って
空の茶碗を掌に持って
伸ばした腕がどこまでも伸びていく
伸びきったところに
今もきっとみんながいる

家族はわたしの
想像上の世界なのだろうか
お代りのご飯を食べていると
その間だけわたしは誰かに見守られ
ひとりではないと
信じることができる


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