嘘つき羊飼いの夜は狼なんて怖くない/ICE
ザワザワ
ざうざう
耳の深い奥
狼が出るんだ
湿った草をかき分けて
夜のツメクサ
エノコログサを
柔軟で短い子供の記憶を
濃紺の空に見守る
アベンチュリン
インクルージョン
片隅ではぐれた穏やかさの
生温い布団の中で
心臓がもう飛び出しそう
1つしかないらしいのに
見たこともない現(ウツツ)は
急いで明かりを消さなきゃ
こっそり息をひそめて
「む」の字も出さないよう
唯1人きりの闇に
礼儀正しくノックをしたり
ありもしない煙突からでなく
それでも規則正しく訪れる
主観の夜に
狼が出たんだ
本当に本当の本当
あの日迄は
虚しく空いた物語の頁
他に登場人物は狼しか居なかった
僕は初めて
2人になって
無防備に拡げた瞼の空に
ザワザワ
ざうざう
小さな夜の風の音も
今ははっきり聞こえるんだ
狼なんて怖くない
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