理由もなく昔の女と食事して/……とある蛙
 


昔の女などとゲスなことをいう僕
君の唇は
刺身を受け入れるため開かれて
刺身を咀嚼する際の唇の動きに
見とれている僕は

一個の変質者


一〇年ぶりにあった君は
食事の手を休めて微笑んだ。
僕が君の唇の動きばかり
追っているのに気がついたからだろう。

君の瞳は清々しいが
目尻に相応の皺があり、
僕の知らない時間は沢山刻まれていて、
近況を言い合っても
その言葉など何も頭に残らない。

中空を漂った言葉を目で追うことはなく
僕はただ君の唇を見つめる。
靄のかかった空気は過去の絡み合う
己の姿を抱いたまま
君の唇を見つめる。

しかし

僕自身の曖昧な生活を恥じて
何も言い出せない自分と
目の前にいる君に対する思いが
全く交錯せず別れた
さよなら

お幸せに。

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