呼吸期/殿岡秀秋
 

浅い呼吸になりました

中学生

学校をさぼって
林の奥の野原にねころがって
木の間に浮かんでいる
雲に息をふきかけていました

高校生

長距離走のときに
林間の道をひとり走ると
心臓の音と吐く息だけが
聴こえていました

大学生

呼吸を忘れて議論する
相手の顔が土気色の甲羅になり
議論の後で痛む頭を鏡に映すと
ぼくの顔が蒼い甲羅になっていました

社会人初期

息を
詰めて
まわりを
見ていました

社会人中期

からだの
硬いところには
息がとどいていないことに
気づきました

社会人後期

からだのなかの
いたるところに
息を
おくりこもうとしています

老後

呼吸を
自在にあやつる
仙人に
なるでしょう

最後

それでもいつの日にか
息が止まったら
新たな呼吸期に
移行したのです














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