人間ではないアイロン/真島正人
 
{引用=
人間ではないアイロンは
居心地が悪かった
風景の中に
うまくなじむことができず
いつも悩んでいた
口がないので
硬く言葉を閉ざして
じぶんのくるしみを
表現することが
できなかった
時折、
いいやしばしばに
湯気は立てた
だがそれは
命令に従っただけだった

老婆の指は
骨ばっていたが
しなやかで
洗練されていた
それは口よりも
饒舌に語り
女の
年老いた秘密を
時折閃光のように
垣間見せた
老婆の唇は
色あせて疼き
言葉は詩よりも
沈黙を好んだ

人間ではないアイロンは
不思議だった
人間と猫だけが
時間の
蕩ける
[次のページ]
戻る   Point(7)