猫のこと/はるな
ころんと手前に転げてくるのだ。思ったよりも遠く、小さく、純粋なものになってしまって。
男の子とは、高校を卒業するまえに、一度デートをした。大きな公園で。そのことを、まだ誰にも言っていない。四時間も五時間も話をした。重ならなかった自分たちの時間にたいする言いわけのように。手もつながなかった。肩も寄せなかった。わたしたちの時間は、重なるには遅すぎた。そういうことが、話せば話すほど浮き彫りになっていくような、それでいてかなしくもうれしくもない、そんな時間だった。
そのときに猫がいたのだ。夕暮れで、帰るまぎわに。彼が猫をふしぎな声を出して呼ぶと、猫はたやすく彼に吸い寄せられ、抱きあげられた。
わたしもそんなふうにふしぎな声で呼んでもらえればよかったのになあ。
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