あのころはスターを目指していた俺。/番田
だ
カラオケの安っぽい伴奏に合わせながら
ポテトをありあまるほどに注文して コーラで 流し込む
あれは幸せだったものだった
あんな経験は もう あまりできないだろう
*
今はいつも一人で夜を過ごしている
浴びるようにして酒を飲んでいたのはいつだったろう
風呂に入るとそこに生まれる 微かな微笑み
誰かと一緒にいればよかったな
ツタヤでレンタルビデオを借りては 帰ってくる
缶詰の蓋を開けては一日が終わっていく
私はどんな人生を送ってきたのだろう
デジタル化されていく時代が私に死を迫る
タクシーに乗りながらラジオの音に胸を弾ませている
声や歌は時代が奏でる伴奏なのかもしれない
もう そこに 思い浮かぶことなど 何もなかった
*
財布も通帳も 何も残っていない
あるのは私の体と 外を流れていく 景色だけだ
思う人の場所も顔も思い出せない 名前も忘れかけている
JR山手線がビルの間を抜けていく様子が見えた
私はいつまでもそこに立っていたいと思える
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