あのころはスターを目指していた俺。/番田 
 



カラオケの安っぽい伴奏に合わせながら
ポテトをありあまるほどに注文して コーラで 流し込む
あれは幸せだったものだった
あんな経験は もう あまりできないだろう



今はいつも一人で夜を過ごしている
浴びるようにして酒を飲んでいたのはいつだったろう


風呂に入るとそこに生まれる 微かな微笑み
誰かと一緒にいればよかったな
ツタヤでレンタルビデオを借りては 帰ってくる
缶詰の蓋を開けては一日が終わっていく


私はどんな人生を送ってきたのだろう
デジタル化されていく時代が私に死を迫る


タクシーに乗りながらラジオの音に胸を弾ませている
声や歌は時代が奏でる伴奏なのかもしれない
もう そこに 思い浮かぶことなど 何もなかった



財布も通帳も 何も残っていない
あるのは私の体と 外を流れていく 景色だけだ
思う人の場所も顔も思い出せない 名前も忘れかけている
JR山手線がビルの間を抜けていく様子が見えた
私はいつまでもそこに立っていたいと思える


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