おせち/salco
子供時代、うちでは元旦の料理を父がした。七草がゆは飛ばしたが、
鏡割りの日にはひび入った鏡餅を砕いて砂糖醤油味で焼いた「かちん」
や、塩をまぶした揚げ餅を作ってくれた。と言うのも、母が真っ当な料
理を作れなかった。
田舎の神童気取りで家事の手伝いを免除された育ちも与るのか、主婦
の素質を持ち合わせていなかった。素質というのは器楽的才能にも似
て、努力を加算したところで高が知れる土台のことである。世の中には
血の滲む思いをしても市井のピアノ教師にしかなれぬ者が数多といるよ
うに、随分くやしい思いもしたであろう母は、バイエルさえ満足に弾け
なかった。掃除をしても埃だらけ、整理整頓
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