0/はるな
が叫ぶのと、「ベイビー!」とメイロさんが叫ぶのが、ほとんど同じタイミングだった。わたしはほほが地面に擦れたけれど、それはそんなに痛くなかったし、どうしてそんなふうに転んだのかわからないのだけど仰向けに転がったせいで母の顔が良く見えた。だから、ベイビー、と叫んだメイロさんの声を聞いたときの母の表情を覚えている。たぶん母は、メイロさんにわたしの名前を読んでほしかったのだ。わたしの父親であるように。母の夫であるみたいに。走ってきて、わたしを抱きあげたのはメイロさんの方だったけど。メイロさんの肩ごしに、心配そうな母の目がみえた。母はたぶん、自分の失望にはまったく気付いていなかった。そういう類のかわいらしい
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