音のない洞窟/吉岡ペペロ
 
男の歌うファドがながれていた

それを聴きながらヨシミの逡巡を聞いていた

胸が痛いのはヨシミもおんなじだろう

部屋が明るかった

よく効く栄養ドリンクを飲んだあとのようだった

そのあざやかな室内に

なぜだかシンゴは懐かしさを感じていた

デジャヴュとはこういうことを言うのだろうか

ため息が吸い込まれていた

呼吸のメカニズムとはこういうことを言うのかも知れない

わかれの辛さ、執着、みらいへの嫉妬、そこにあるべつべつの人生、今夜のこれからのこと、、、

それらはあまりにも実体がありすぎてシンゴにはかえって実体のないもののように思えるのだった

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