引越しの準備/とんぼ
絶望がぎりぎりと身をよじる
ああだめだもう、泣きますね、ついにはそう言って涙を流し始める
わたしは手を動かす
心をしんとさせたまま
部屋の中には何もなくなった
ゴミ袋はぱんぱんに膨らんで
次のところへ連れて行けないものを隠した
旅立ちのために
まだゴミになりきれていないしなものたちが 袋の中で静かにしている
わたしはわんわん声をあげて泣いている絶望を両手でつかんで
ゴミ袋へ押し込む
ぎゅっと口をしめると
声も声ももう すっかり遠くなる
春が来たのだ
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