千手観音像/なき
 
を的確に浚い出し鐘の伸び続ける音の糸が板の継ぎ目を瞬間引き込んで時が止まり息を引きとめたのは私。
 残響。伸びた音の糸は飴細工のように細く長くまっすぐに繰り返し伸び伸びて伸ばされて木をたたく音と共にこだまする声は私のものか母のものか父か祖父か祖母かあなたのあなたのあなたのものかそれは眠ったまま耳の隙間にうずくまってすすり泣くような「愛しい……」やさしさをやさしさでやさしさが齧りとっては吹き消していくのをコインの擦れ合う音が押しとどめようと酷く残酷な行為をするので畳に正座する親指は足先は足は内臓はますます凍り固まり固められ固まってしまえば痛みは私のものでは無くなって私ではないものの処へ帰っていった
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