千手観音像/なき
 




 片方の靴を失くしたまま辿りついた木目の艶やかな三門をくぐると雨降りの翌日の美しい鈍色の砂利の上で靴を履かない私の靴下は冷たく湿り腐りかけていた親指の爪が凍りかけて腐っても凍っても痛いのだと知った私の皮膚に踊る靴の映像がちらちら映って残像残響残照が隔たりの届かない隔たりの隔たりに反映反響反照しているのを感じた皮膚が鳥肌を作って体の中からノイズを生み出している。

 残像。懐かしい匂いの私は今はもうどこにも行けずに(父と母に挟まれて)どこにいるのかわからないのに眼に皮膚に静止する池に音を立てて歩くしかない鴬張りの床に虹色に輝く塵に映り半眼に埋め込まれた水晶は私の私の私のノイズを的
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