居場所/殿岡秀秋
して意味のないことを話したり
どうしてぼくはここにいるのか
いなくてもいいのではないか
ぼくはこんなことのために生まれてきたのか
違う気がする
ぼくが胎児のころに
母は引越しをすることになって
家探しや金策で忙しくなり
その緊張で
狭苦しくなる子宮のなかにいて
ぼくはからだを巻き貝のようにまるめ
肉の襞におされながら
柔らかな身を硬くしていたのではないか
それからずうっと
緊張する場面では腹を硬くして時をやりすごす
我慢がコップの水のように溢れると
どこかへ逃げだしたくなる
逃げだしたいのに
小学校の教室から抜けられなかった
会議の途中で消えることはできない
そんなとき
息を吐きながら
腹の力をゆるめる
息を吸ってまた
吐くときに
ゆっくりと腹から力を抜く
肩から筧の水が落ちる音が
からだに響いて
ぼくはここにいていいのだと
感じられて
頬が緩んでくるまで
繰り返す
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