飛翔するカゲの家族/石川敬大
 



 カゲがひとつ減った
 またひとつ減ってこれでは
 カゲの家族が家族ではなくなってしまう
 カゲの家族の個々のカゲすらなくしてしまう

 とつぜんの惨劇ではなく
 しのびよってきたものによって
 つぎつぎ斃れた
 斃れながらも
 洗いたての両翼をひろげて
 なくしたカゲを地上のカゲに預けたまま
 神がいる
 空を飛翔した

     *

 やっとのおもいでたどり着いた
 泉だった
 この泉でなければ
 と、声をそろえて
 カゲの家族たちは鳴くのだった

 泉
 と、いっても
 湿田がひろがる海につづく干拓地の
 川やクリークに架かる橋をわたって
 右往左往する昆虫みたいなクルマが連なって蝟集した
 カゲの家族の
 カゲがある団欒を
 共有したいそのためだけに集まってきた
 祈りににた行為だった

 ひとびとは
 自覚することなく
 カゲをうしなったカゲの家族が飛翔する
 神の空をみあげた

 
 なにも聴こえない羽音をたてて
 絶滅の危機がせまっていた





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