音のない洞窟/吉岡ペペロ
 
シンゴにとってじぶんほど不可思議な存在はなかった

ここは洞窟なんだろうか

ここは苦しいところなんだろうか

楽しくなるところなんだろうか

シンゴはじぶんがどうしてこんなところにいるのか

夾雑物の音どもばかりのそこは

あとから思い出そうとしてみても

なにも音がしてこないのだった

だからシンゴはここを<音のない洞窟>と呼んでいた

ヨシミをうしなって以来

シンゴはときどきこの洞窟のなかにいる

いや、ときどきというのは嘘で

四六時中いるのかもしれない

それは心癖でも

精神を衰弱させていたからでもなかった

だれかの幸福と

じぶんがつながっているのかが分からなかった

シンゴは祈る

ヨシミ、ヨシミ、と祈る

あのようなたいせつな存在と、じぶんはよくもアッサリと別れられたもんだ!

そんなじぶんへの驚きを確かめているふしがあった







戻る   Point(4)