音のない洞窟/吉岡ペペロ
シンゴにとってじぶんほど不可思議な存在はなかった
ここは洞窟なんだろうか
ここは苦しいところなんだろうか
楽しくなるところなんだろうか
シンゴはじぶんがどうしてこんなところにいるのか
夾雑物の音どもばかりのそこは
あとから思い出そうとしてみても
なにも音がしてこないのだった
だからシンゴはここを<音のない洞窟>と呼んでいた
ヨシミをうしなって以来
シンゴはときどきこの洞窟のなかにいる
いや、ときどきというのは嘘で
四六時中いるのかもしれない
それは心癖でも
精神を衰弱させていたからでもなかった
だれかの幸福と
じぶんがつながっているのかが分からなかった
シンゴは祈る
ヨシミ、ヨシミ、と祈る
あのようなたいせつな存在と、じぶんはよくもアッサリと別れられたもんだ!
そんなじぶんへの驚きを確かめているふしがあった
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