「ゼロの焦点」その擬態のしんじつ/石川敬大
 

 遺体が確認できない現実が石のように転がっていて
 身悶えて胸がくるしくなるのでしょうが
 死んだことが証明されているかれのこころが
 新しいくらしとかのじょへのおもいに満ちていたのだと知れば
  ―― それだけで
 ウツむくことなく生きていけるはず
 あの安堵の表情が
 そのことを証しています

 眼路のかぎり灰色の波濤でみえない対岸にも国がある
 冬の断崖が
 さいはてのゼツボウにみえるか
 はじまりのキボウにみえるか
 は、じつは
 天地をわかつ重要な
 分岐点なのです





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