「ゼロの焦点」その擬態のしんじつ/石川敬大
 



 冬の断崖にたつ理由は
 自殺か
 他殺か
 イノチを落とすためばかりではない
 のこされた者が
  ―― その
 波濤を眼下にする行為に釣りあう不条理感の
 くるしみ
 かなしみ
 が、こぼれるほどにあるからです

 一週間のくらしで
 戦争を経てきたかれのキセキを
 たどることもかなわず
 追認するほかない必然が緘黙されていても
 かれの目を
 のぞきこんで心中に
 垂直にオモリを垂らし
 はらの底にあるソレを直感的に信じたはずなのです
  ―― だからこそ
 かのじょは
 サビしくキビしい冬の波濤を
 前にすることができたのです


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