「ゼロの焦点」その擬態のしんじつ/石川敬大
冬の断崖にたつ理由は
自殺か
他殺か
イノチを落とすためばかりではない
のこされた者が
―― その
波濤を眼下にする行為に釣りあう不条理感の
くるしみ
かなしみ
が、こぼれるほどにあるからです
一週間のくらしで
戦争を経てきたかれのキセキを
たどることもかなわず
追認するほかない必然が緘黙されていても
かれの目を
のぞきこんで心中に
垂直にオモリを垂らし
はらの底にあるソレを直感的に信じたはずなのです
―― だからこそ
かのじょは
サビしくキビしい冬の波濤を
前にすることができたのです
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)