耳/たもつ
 
 
 
バスが山道のカーブを曲がりきれずに
ガードレールと  
摂食した
バスとガードレールが何を食べているのか
ここからはよく見えなかった
ただ黙々と摂食を続けていた
いっしょにバスに乗っていた昆虫たちは
だらしなく開いたドアや窓から
樹液などを舐めに飛んでいってしまった
わたしは一人
ひとつという言葉の方が似合うかのように
最後部の座席に取り残されていた
お腹が空いて食べられるものを探すと
ポケットの中にパンの耳があった
自分の耳のような食感がしたけれど
自分の耳など食べたこともないし
もう残っているものは何もなかった
 
 
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