遊歩者/塔野夏子
オレはざわめきの粒子に身体を打たせようと
再び青い扉を開ける
精神に帆をあげて進んでゆく
可憐な狂気が束の間の夢を羽ばたかせている
物憂げな空には最後の揺籃が揺れている
噴水広場には優し気な探偵たちが行き交い
とりどりの風船たちは細い路地へと陽気に滑り込む
オレは歩き 立ちどまり 優雅に破れたポスターに目を走らせ
また歩きだす
小鳥たちはきらめきを撒き散らして飛び去り
やがて月の声がはじまる
そして塔をめぐる惑星たちのダンスに見とれていると
金属的な眠りが街に垂れ込めてきたけれど
オレは不思議なほど醒めたまま
どこかの窓から逃げだしてきたいかした音符たちと
次々と握手を交わす
気づくと街はずれに来ていた
さびしい灯りに照らされながら
オレは何故か淡い湖と
小さな桟橋を思い浮かべていた
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