終わる恋/はるな
 
ふれている。

悲しみよりも眠たさで目を腫らして、
スーツの群れのなかでコーヒーを飲んだ。
年下の、シャネルの匂いのする男の子。
手の中でどんどんさめていくコーヒー。
わたしたちは、ほんの一時でも同じ気持ちでいられただろうか。

かれはさみしいと言うけれど、
わたしと海をわけあってはくれない。
改札で手を振ったあと、
きた道をひとりで戻るさみしさを想像してはいない。
そしてわたしも、
とおくへ行く彼の決意と悲しみを想像できはしない。


じゃあなぜ触れたの


言わないで、手を離して、吸いこまれる切符、
駅員の規則ただしい動きと、埃っぽいスーツの群れ、
首もとにのこるシャネルのにおい。
わたしたちの七日間と、去っていく年下の男の子。
衣服に包まれた骨のかたちを、うしろすがたに何度も思い浮かべていた。


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