メインディッシュ/渡 ひろこ
温められた皿が食卓に置かれている
「私を彩って。そして汚して…。」と
上気した白さで語りかけてくる
アンティパストでは物足りないと言いたげな光沢で
ゆるやかなフォルムの輪郭を際立たせている
メインまで待てないもどかしさが
ツルンとした表情にあらわれて
徐々に人肌の温度まで落ちていく
なめらかな手ざわり
冷めてしまう前にいそいそと
鮮やかなマゼンダに仕上がった鴨フィレ肉を盛る
まわりにはボルドーの甘酸っぱいカシスソース
果実の香りがフワっと立ち上った
ドラクロワの絵のように描かれて
誇らしげな余白が笑みをこぼす
途端に堪えきれなくなったナイフが
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