金木犀と綿が舞うような/01
 
「ねえ、キンモクセイって何?」
 テレビから聞こえてきたのは、キンモクセイ、というはじめて耳にする単語。形も香りもなく、音楽のように心地よく響く単語だった。
「木星と金星がぶつかってくっついたんだよ。それでその星のことをキンモクセイって呼ぶことになったって、知らないの? テレビじゃこの話題で持ちきりなのに。」
 受話器からきこえる、ため息のような吐息。煙草の煙を吐いているんだろう。彼はヘビースモーカーだ。
「え、でも、いい香りがするって言ってたけれど……」
「……金木犀って、木だよ。植物。丁度今くらいの時期になると、オレンジ色の花を咲かせて、すっごくいい匂いがするんだよ。そっちには無い
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