比喩/寒雪
 

彼女の姿が見えなくなるのを
出来るだけ遅らせたかったが
目の前にはきれいに土が被せられて
墓穴の中身は見えなくなった
何も言わず時間をかけて手を合わせて
目を閉じて冥福を祈る
暗闇の中
どこからか泣き声と共に
いつも見ていた彼女の艶光りする体が
手を伸ばして触ってみる
あるはずのない感触が脳裏に蘇る
目を開けた時
やはりそこに彼女はいなくて
自分で埋葬した彼女の眠る土が
剥き出しのまま風に晒されている


これまでのことすべてが
文学作品の退屈な比喩だったら
叶わない願いを胸に
今日も彼女の前で手を合わせる
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