まだだ。まだなのだ。/板谷みきょう
もうこれで充分だとでも
言うのだろうか
まだだ。まだなのだ。
米が無いことを嘆き呟けば
芋や南瓜が60kgも届いたじゃないか
ふた月を米無しで過ごすことに
愚痴を溢せば
30kgの新米が届いたじゃないか
炊き立ての新米が有難くて
妻と二人で
泣きながら食べたのも
つい先日のことじゃないか
何とかなると光が見えた年の瀬に
彼方此方にお荷物のように
三ヶ月でたらい回しにされる母と
明日から放射線治療が始まる兄と
差押予告書に右往左往する我家と
誠実に慎ましく
生きてきたはずだから
きっと皆も口にしないだけで
同じように哀しく切ない暮らしを
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