浴槽の湯/乾 加津也
ま
わたしのいまを(ここで何度も)
たちあがらせる棘がある
首まで浸かる
太古からの羊歯たちの繊維質
ほんとうは巨大なのだろう
すでに声をなくした水晶がわたしを見る
わたしは電脳秋葉原で交差してひらく黄昏と
寄る辺ない犬の放浪を沈め
これから着床する
苦い薇(ぜんまい)の贐(はなむけ)に
族をもつ元素記号を
付箋にして
底まで
送る
( 屁を吸って
藻があらわれた
湯からあがり
( 分類がやみ
( 火消しも帰る
処刑のような躯に
すがりついた水晶のかけらを集めて目薬にする
もどれない何かで
まどう 水位よ
涙をたたえられるというなら
浴槽にわずかな睫をのこし
配管の網の目に薔薇の花を降らせる
熱の砦になれ
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