浴槽の湯/乾 加津也
 
配管の網の目に棲む

浴槽にためる湯が 水位を
どうするのかを見ている
うらなりの子のように産みつけた
執念をよびさます

学くんに貸して戻らなかった鍵盤も美和子さんにそっとわたした恋文も
もう 濡れてつかえない
( 呑まないの
( 襲わないの
みずの序列が
まるく尖りながら
徐々に函に汲みあがる

はれた眼球を押さえ
雁垂れになって
足から入る
おもてのようなものが
拒絶のようにぷるんとたわむ
生き物がきたと わらいがおこる
この浴槽ごと
赤水のように漏洩する金属の管(くだ)には
わたしの事故で
運ばれた病院から抜けだした人の消息不明も溶けたまま
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