飛行船のなる樹/塔野夏子
 
僕の住む街の近くに
緑の草におおわれた丘があって
その頂には飛行船のなる樹が立っている

枝々に
最初は小さな小さな 飛行船がぶらさがって
そして日に日に 少しずつ大きくなってゆく
その様子を 僕らは毎日のように見にゆく
誰も小さな飛行船を
自分のものにしようともいでしまったりなんかしない

そしてある日
飛行船たちは
ひとつまたひとつと
枝からはなれて飛びたってゆく
前から決まっていたかのように
それぞれに いろんな方向をさして
ゆっくりと飛んでゆく 遠い空へと消えてゆく
その様子を見るのを 僕らは一番楽しみにしている

でも時々
怖い夢を見る
そうし
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