蛇の川/殿岡秀秋
 
隅田川は天井川で
千住の街から川面は見えない
母の知り合いの子が
釣りをしていて溺れ死んだ
川岸に菩提樹の若木を植えてみんなで拝む
小学校入学前のぼくが土手の上からのぞくと
黒くて巨大な蛇が光る
あわてて川が見えないところへ
あとずさりして母の手を握る
蛇に向って花輪が投げられる

近くに大きな鉄骨アーチ橋がある
「この橋は貴方のお祖父さんが作ったのよ」
と母がいう
小学生になって千住大橋の近くをとおるとき
同級生に自慢した
「この橋はぼくのお祖父さんが作ったんだ」
「ええ、そうなの」

大きくなってから母に確認した
祖父は馬車で建築資材を運搬したという

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