海嘯/天野茂典
 
的な貧窮だった
  火事が出た
  あっちこっちの市町村が燃えつくされた
  何1000艘もの漁船が沖に陸に運ばれた
  裸の死骸
  足を突き出して埋もれた死骸
  絶望とは声をうしなうことなのだろう

  生き残れたのは狭い山道を這いつくばって
  高みに上りつめた市町村民だけだった
  飢えと寒さに苦しんだがやがて白米に預かり着衣も整って
  山を降りた彼らが見たものはまさに絵師にも画けない
  地獄絵図だった
  陸も海もめちゃくちゃだった
  今でも彼らの耳の奥には沖からの海嘯がとどろいているはずだ





              吉村明『三陸海岸大津波』(文春文庫』参照




               2004・10・26
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