巻き戻しか、それとも早送りか/ホロウ・シカエルボク
 
あの小道に立ち込めた夜の向こうに、さっきまでそこにいた残像の向こうに
速い車がまたひとつ通り過ぎる、船の舳先が波を起こすように車道に残る雨を跳ね上げながら、エンジンの稼働音は巻き戻しかそれとも早送りか


巻き戻しかそれとも早送りか、僕らは何時だってそんな人生を歩んでいる、確かなものはどこにもないし、確かなことなんか決めたりしちゃいけない、ねえ君、さっき僕らの前を走り過ぎた古臭いサバンナのナンバー覚えてる?080の後にそのナンバーを回したら運転手に繋がって、二人の真理について有意義な何かを教えてもらえるかもしれない、僕は踵を返して
君と歩いた道をひとりで帰る、マイナーセブンスに気をつけながら口笛を吹く、お気に入りのカフェの閉じられた入口の前で高くなった煙草を吸う、駅前広場の喫煙スペースの灰皿に吸殻を捨てながら、君がさっきやったさよならの真似をして肩をすくめる


いつもほんの少し何かが外れてしまう



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